世界史学習を楽しくする世界史教養書のすすめ
クレオパトラの魅力とは
「世界史が面白くてたまらない」という人に共通しているパターンがあります。それは世界史関連の教養書をたくさん読んでいることです。かれらは、「出来ごとでも、人物でも生き生きとつかめて、教科書に書いてあることがよくわかる」と口をそろえていいます。このことを具体例で説明しましょう。
古代ローマ史に登場するカエサル・ポンペイウス・オクタヴィアヌス・アントニウス・クレオパトラなどについて世界史教科書では、内乱の1世紀の中で約1ページをさいて記述しています。しかし、喜怒哀楽のある人物像は浮かんできません。ところが、中公文庫版「ローマの歴史」を読むと、こんなことがわかります。(以下、p.221~240の要約紹介)
〝ファルサロスの戦い(前48年)でポンペイウスに大勝したカエサルはエジプトに着き、宰相に監禁されていたクレオパトラを迎えにやる。女王は絶世の美女ではないが、美しい金髪と蛇のようにしなやかな肢体を天才的な化粧術で飾り、性的魅力に溢れていた。歌うように甘い声は、その貪欲で知的な性格にまるでそぐわなかった。長い戦陣の禁欲生活ののち、カエサルのような好色家が欲望をそそられないはずはない。9カ月、カエサルは女王と暮らした。前48年、カエサル52歳、女王21歳のときである。
第2回三頭政治でアントニウスはエジプト・ギリシア・中東を得た。彼は反乱軍に資金援助した女王を裁くために出頭を命じた。女王は飾りたてた船でやってくる。漕ぎ手の侍女たちはニンフの衣裳、女王自身もヴィーナスさながらの挑発的ないでたちで金の天蓋の下に横たわり、横笛の合奏に耳を傾けていた。女王から食事に招待された彼は、女王を一目見て恍惚となり、デザートの果物を食べる頃には、フェニキアとキプロスを与える話になっていた。彼はそのまま都アレクサンドリアへ行く。
アントニウス49歳、女王26歳である。のちにアントニウスはオクタヴィアヌスの姉と結婚するが、まもなく離婚して、女王と正式に結婚、生まれた二人の娘に中東を与えた。
前30年、女王は香水を薫らせ白粉を塗り薄物一重をまとった例のいでたちで現れる。だが悲しいかな、薄物の下に透いて見えるのは40歳の肉体であった。高すぎる鼻の欠陥を補ってあまりあったみずみずしい肌も輝くばかりの微笑も、もはや失われていた。冷たくあしらわれた女王は、女として破滅したと感じたのであろう、胸を毒蛇にかませ自殺した。”……
生き生きした人物像が多少とも伝わったでしょうか。内乱の1世紀の時代が身近に感じられたはずです。世界史教養書を読むときの諸注意点をあげます。
①数冊は読もう。
②学問的に正確かどうかは問題にしない。
③テレビ、映画の脚本づくりの材料さがしのつもりで面白いところを主眼に読む。
④難しいところや人名・地名などはとばして読む。
⑤学習・暗記に役立てようなどと考えてメモなどしない。
⑥興味をもったことは友人に話す。人に話したことは忘れない。
世界史教養書は、中公文庫、岩波文庫・新書、朝日選書、文庫クセジュなどたくさんあります。自分に合ったものを読みましょう。
世界史を身近に感じるために
成田から飛び立って、世界各地の史跡、遺跡、美術館、博物館などで、じかに本物に会うのかよいでしょう。北京郊外の万里の長城(約2400km)や明の十三陵(歴代皇帝の墓)を目前にしたなら、中国の皇帝たちの統治者としての姿勢を実感できます。皇帝たちは即位と同時に自らの墓づくりを始めます。古代エジプトのファラオたちも、即位とともに神々の神殿と自らの死後の祭殿および墓づくりを始めます。自分を最高権力者と考える専制君主は、自分もやがて神・永遠者になるのだという願望をもつことを私たちは知ることができます。そして、私たちの心の中にも、できれば「永生きしたい ! 」という願望のあることを発見します。
世界旅行、それは近い将来に実現を夢見ることにして、現段階では、美術書・諸写真集などの印刷物やテレビの該当番組を積極的に活用することをすすめます。海外旅行のガイドブックも、読みこなすと、楽しい世界史教養書になります。エジプトのカイロからルクソール(旧名テーベ)まで約720km。東京-青森間か。カイロ南25kmにあったメンフィスから中王国・新王国になりテーベに遷都したのはなぜか……興味はつきません。